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垂直離着陸戦闘機概論
・ハリアーとエネルギー機動性理論
発進に長い滑走路を必要とせず、垂直ないし短い滑走で離着陸する機体の開発は、航空機が開発された頃から研究が行われてきた。
世界で最初にそれに近いものを作ったのはドイツで、かの有名なフィーゼラーFi156<シュトルヒ>はごく短い距離、向かい風によってはほぼ仮想距離なしに発進することができ、戦場でさまざまな目的に利用された。
これと同じ事を戦闘機で実現しようと各国は研究を進めてきたが、枢軸側で最初にその種の実用機となったのは英国のホーカー社が開発した<ハリアー>だった。
幾種かのテスト機を作った後、60年代末期に生産型<ハリアー>はGR.1と呼ばれるタイプがまず空軍に配備され、続いて艦載機型である<シーハリアー>FRS.1が海軍に…そして同盟国である日米でも配備され始めた。
正規空母に搭載するには当時の<シーハリアー>は航続距離や兵装搭載量が不足していたが、各種の揚陸艦や護衛空母などに搭載する地上支援や簡易防空用の機体としてマッチしていた。
機体の小ささや、カタパルトなしでも発進できる(垂直離陸する場合に比べてペイロードが増大する)という利点があるこの機体は、たちまち日本の陸戦隊や合衆国海兵隊に受け入れられた。
このような部隊に対する支援は、たとえば日本の場合<雲龍>級や<大鳳>級などによって行われてきたが、航空機のジェット化・大型化によってこれらの艦に積む機体には制約が出てきており、二線級のそれを使わざるを得なくなっていた。
そんな彼らにとって亜音速とはいえ、小型で運用が便利かつ機動性の高い<シーハリアー>はなんとも頼もしい存在であった。FRS.1というコードネームは戦闘・偵察・攻撃を意味していたが、その名の通り<シーハリアー>は<ハリアー>とは違って空対空戦闘能力をも備えており、機首に簡易的なものとはいえレーダーを装備して地上部隊上空を飛び回って敵を攻撃しながら自分と、そして限定的な脅威なら母艦の身も守ることができた(特に早期警戒機による適切な誘導が行われた場合かなりの能力を発揮した)。
<ハリアー>と<シーハリアー>は各国の海軍に急速に普及し、枢軸国ばかりでなく中立国のスペインまでがこれを購入、各種の改良型も作られてベストセラーになった。
だが、次第に話は妙な方向へと進み始める。
1970年代、成功策である海兵隊にAV-8Aとして採用した<ハリアー>の改良型を合衆国はマグネドル・ダグラス社に開発させ、英国側メーカーもこれに協力してAV-8B<ハリアーU>を開発し、後に英国も<ハリアー>GR.5として採用した。
<ハリアーU>はパワープラントであるペガサスエンジンの小規模改良型を搭載し、スーパークリチカル翼型を使用して厚みを増すとともに翼面積を増加させた新主翼・複合材料を使用した重量軽減・コクピットの再設計などの設計変更を行い、1980年代初頭に実戦配備され、WW4でもまだ数の少なかったF-32<シュライク>をよく補って活躍した。
この機体そのものはよかった。
問題は、別のところにあった。
<ハリアー>シリーズの成功の鍵は、ブリストル・シドレー(後にロールス・ロイス)社が開発したペガサス・エンジンにあったが、同時にこのエンジンの発展の限界は、そのまま<ハリアー>の発展の限界でもあった。
<ハリアーU>は、ペガサスの小規模改良型であるペガサス11と呼ばれるものの開発を前提に開発された機体だったことはすでに述べたが、実はペガサスエンジンにはもうひとつ改良計画があった。
推力を大幅に向上させる大規模改良型、ペガサス15計画である。
合衆国と英国がこれを採用しなかったのはひとつには費用がかかりすぎるとされたためと、さらに言えばペガサス11でも彼らの目的は十分に達成できると判断したためで、本当ならペガサス15はそのまま立ち消えになるはずだった。
日本とスペインが、このエンジンの開発を決意しなければ。
彼らがなぜそのような決意をしたかについては、いくつか原因がある。
まずひとつには、この機体は<飛天>級空母の改良型である<轟天>級空母の配備などによって日に日に陳腐化しつつある<大鳳>級空母の戦力向上という期待が込められていたことである。
この頃日本海軍は<清風>の配備を開始していたが、この機体の重量は<大鳳>級への配備を不可能にするほど重かった。かといって実質的に予備役状態にあるとはいえ、いまだ数的には有力な勢力(5隻)である<大鳳>級をこのままにするわけにもいかない。<大鳳>級に搭載できる程度の大きさで、かつ有力な性能を持った機体が必要ではないか…日本海軍内部にはそのような声があがっていた。
かといって、今から<大鳳>級に乗せるだけのために新型機を開発するのは無駄が多いし、なによりあの大蔵省主計局が認めまい。
新型機の独自開発がだめなら…手持ちにあるものか、あるいはほかの計画にのっかかる事で何とかするしかない。
結果<ハリアー>改良型と<大鳳>級用の機体という計画は統合され、さらにこれに統合航空軍が保有する<ハリアー>の後継機計画が加わり、当初は揚陸艦に数機配備する程度だったはずの機体は、計画と調達機数がいつのまにか大きく膨れ上がっていった。
それでも当初は、合衆国や英国と同様に<ハリアーU>の計画に参加するという方向で話が進んでいた。確かに速度は音速に達しないしレーダーなどの電子装備も艦載機に比べれば不十分だが、<大鳳>級や揚陸艦、そして統合航空軍用機体の主な任務になるであろう地上攻撃などの任務においては十分ではないかと判断されたからだ。
だが、ひとつの論文がきっかけで話はそれはじめる。
統合航空軍の予備役士官で、その後日本航空機製造(日航製/NAMCO)に勤めた長瀬氏が紹介したドイツのヨハネス・ボイド大佐らのエネルギー機動性理論である。
この理論の詳しい説明は省くが、いずれにせよこの紹介された論文によって独自開発派に海軍内部の流れは一気に傾き始めた。
彼ら独自開発派はこう主張した。
「これから登場するであろう、この理論にしたがって開発される機体に対して、<ハリアーU>では対抗することは困難であり、我々もこのような機体に対抗できる機体を装備しなければならない」と。
この、合衆国あたりでなら「そもそも対抗しようと考えるほうがおかしい」といわれて却下されるような意見は、しかし日本海軍の空母派閥と陸戦隊、さらには統合航空軍の戦術機派閥、そしてその上層部にも波及していった。
日本の軍内部では、伝統的にいかなる突飛なものであろうとも意見は(特に軍上層部の意見は)いきなり排除はされないという気風があった。でなければ真珠湾攻撃などという大博打を太平洋戦争で立案・実行できるはずもない(実際米軍でも検討はされたが、『不可能』と判断されている)。
さらに幸運な事に(あるいは厄介な事に)、同じような問題を抱えたスペイン海軍(彼らの空母の大半は<大鳳>級とほぼ同サイズだ)が似たような計画を実行しようとしているという情報が飛び込むにいたり、独自開発が決定されることとなった。
当初は別々に進んでいた日本とスペインの計画は要求項目がほぼ同じであることが明らかになったときに統合されることが決定し、日本側は中島とNAMCO、スペインはノースロップ・ホルテンがコンストラクターとなった。
のちにAV-16<アドバンスド・ハリアー>と呼ばれる、二八式垂直離着陸戦闘機/NH806<春風/アルファ>はこのような経緯を経て誕生したのである。
まず、中島はペガサス15構想に基づいて新型エンジンを開発。
続いて、日航製とノースロップ・ホルテンが機体の製造を担当した。
<ハリアーU>が地上攻撃を主眼としていたのに対し、<春日“アドバンスド・ハリアー>はエネルギー機動性理論に基づいてカウンターエア性能も重視しており、機動性だけでなくレーダーなどの電子装備の開発も重要だった。
それでは以下に<ハリアーU>と<アドバンスド・ハリアー>の性能を比較してみる事にしよう。
#AV-8B<ハリアーU>(数値はWW4当時の改良型<ハリアーUプラス>のもの)
全長:14.55m
全幅:9.25m
全高:3.55m
自重:6470kg
発動機:ロールスロイスRR F402-RR-408×1(推力約10800kg)
垂直離陸重量:8700kg
最大STOL重量:14061kg
最大速度:M0.98
航続距離:3035km
#二八式垂直離着陸戦闘機/NH806<春風/アルファ>(数値は初期生産型の「11型/Aタイプ」)
全長:14.45m
全幅:9.88m
全高:3.55m
自重:5830kg
発動機:中島“翔”ターボファンエンジン×1(推力約14200kg)
垂直離陸重量:9720kg
最大STOL重量:14780kg
最大速度:マッハ1.58
航続距離:2700km
一見するとわかりにくいかもしれないが、<アドバンスド・ハリアー>は非常に高い性能を持った機体だった。なにしろ、初期型ですら十数年後に配備される<ハリアーUプラス>よりも場合によっては高性能なのである。まして配備当初においてはその高性能ぶりは際立っていた。
<アドバンスド・ハリアー>の特徴としてはレーダーとセンサー・FCSを供えたため細く長く伸びた機首とグラスコクピットの後ろに備えられたカナード、そしてやはり水平尾翼をかねたような前進翼型の主翼であろう。
今となってはありふれているが、フライ・バイ・ワイアに加えて形態制御(CCV)を用いており、これまた大量に使われている複合材料によって機体の大幅な軽量化に成功している。また、主翼の翼端には反動制御装置(RCS)まで取り付けられており、垂直離着陸戦闘機特有の機動に関してパイロットの負担を減らすのに一役買っている。
これに加えて中島が開発した“翔”エンジンが生み出す強烈な推力はこの機体にすばらしい機動性を与え、格闘戦では無敵ではないかと言われたほどだった。
また、機首に備えられたレーダーによって誘導ミサイルの発射が可能になっているほか、主翼に3箇所ずつ取り付けられているパイロンには各種の兵器が搭載可能で、対空・対地・防空制圧(SEAD)にいたるまでどんな任務もこなす事ができた。
むろん、それに比して価格も高額になっており、『AV-8Bの倍するのでAV-16』<アドバンスド・ハリアー>と言われたほどである(実際はそこまで高い機体ではなかった)。
しかし日本もスペインも、これで歩みを止めたわけではなかった。
彼女の次の機体が世界に飛び出すのは、90年代初頭のことである。
・グローバルマルチファイター
1980年代末、日本海軍は<轟天>級空母の配備を進め、<大鳳>級空母はすでに保管艦状態に入りつつあった。
しかし、そんな中でも二八式垂直離着陸戦闘機<春風>に代表される垂直離着陸戦闘機の需要は無くなったわけではなかった。いやむしろ、その高い即応性を買われて揚陸艦や航空軍(航宙軍発足により統合航空軍から改名)では元気いっぱいに働いていたし、海軍では大型艦上攻撃機<水星>と共に攻撃兵力の一翼(主に防空制圧)を担って正規空母にも数機搭載されていた。
ただ、正直なところやはり原型機が<ハリアー>である以上構造上の限界があり、あまり大型の兵器は積めない(当然だが)という弱みがあるため、海軍ではこの機体とさらに老朽化が著しい<彗星>の後継機を求める声が(贅沢なことに)上がっていた。
空軍でも同種の声はあったし、さらに各国が同種の機体の開発をはじめたこともこの計画を後押しした。
たとえば合衆国のJSF計画、いわゆるF-32<藍澤“シュライク”>シリーズ。
東部連合のF-35<香坂“ホーリーキャット”チカ/ちより>。
そして、イタリアのS.141<芹沢”リンチェ”かぐら>などである。
この中でも問題となったのはF-35<香坂“ホーリーキャット”チカ/ちより>と<芹沢”リンチェ”かぐら>だった。
上にあげた3機種はどちらも日本が開発した<春風>を超える性能を目指しており、特に北米正面に広大な戦線を抱える東部連合と、第三次大戦で戦った経験のあるイタリアが開発した2機種は日本にとって脅威となりうるものだった。
特に<芹沢”リンチェ”かぐら>はイタリアのSIAI社がS.138<フォージャー>の次に開発した機体で、小型空母しか装備できないイタリア海軍が他国のCTOL機に対してSTOVL機で対抗するために超音速性能とステルス製を求めた結果、かの「F19」そっくりの外見となって現れた。
このようなものに対抗するため、日本でもこれをさらに上回る、<春風>の新機種を開発すべきだとの声が、日に日に高まっていったのである。
確かに海軍では当時<白剣>という高性能な機体を開発中だったが、これはすでに開発段階で高価なのでそれほど数が造れないことが明らかになっており、艦載攻撃兵力として十分な数を満たすほど行き渡らせるのは無理であろうと考えられていた。
こうして、航空軍と海軍に配備された<春風>、さらに<水星>の後継と場合によっては<清風改>および<白剣>の補完として開発が決定されたのが三九式垂直離着陸戦闘機/NH816<春日“海風/ベータ”せりな>だった。
開発にあたっては三菱・中島・川西などのメーカーはそれぞれ仕事を抱えていたため、<春風>の開発経験をもち、かつ比較的手が空いていた日航製が開発を担当し、スペインも<春風>の同機種である<アルファ>の後継機を求めていたため例によってノースロップ・ホルテンが開発に参加する事になった。
のちに、FV-2<ヴァルキリー>と呼ばれる機体である。
日本でもこの名前が有名になったのは、某アニメの塗装仕様そのままの機体をエアショーで飛ばすという計画が実行されたためだ。紛らわしいことに、ノースロップ・ホルテンでは可変翼戦闘機としてNH660<水島“ヴァルキリー”あきら>という機体を開発しており、どちらが正当な<ヴァルキリー>かで争いが起きるほどだった。
例によって制空・邀撃・対地・防空制圧などの多岐にわたる任務をこなすため、メーカー側ではどのような対応を行うか協議が行われた。
ひとつのやり方としては、合衆国や東部連合が行っているように空軍型、艦載型、垂直離着陸型と分けて開発することである。開発にあたったのが通常の企業であればそうしたことであろう。
だが開発にあたっていたのは日本航空機製造とノースロップ・ホルテンという、特色ある機体を作ることでは人後に落ちないメーカーだった。
結果として…彼らは恐るべきものを作り上げた。
機体各所にスラスターを装着し、そこから気流を噴出して推進・機動するというシステムによって全てのタイプを一機種で実現させたのである。
揚陸艦や制海艦に搭載された場合はSTOVL方式で運用され、正規空母に搭載された場合はカタパルトかスキージャンプ甲板から発進して着陸は垂直着陸方式か制動着艦方式をとる。
最高速度はマッハ2前後、推力荷重は1.6程度だがスラスタージェットはその数字から想像されるものを遥かに越える機動性をこの機体に与える。
実現できるのかといわれたエンジンは石川島播磨重工が作り上げたIHI-SJ-911。
機体に関しては双方が惜しみなく技術を盛り込み、ステルス性、デジタル・フライ・バイ・ライトやCCVが当然のごとく装備されたほか、主翼と2枚の尾翼はなんと全遊動式。
電子装備のほうもおさおさ怠りなく、来栖川電工とノースロップ・ホルテンのアビオニクス部門によってグラスコクピット、アクティブ・ステルスなど、最新の技術が投入された。もちろん、人間にはとても手におえない複雑なシステムを管理するためのスーパーコンピューターも内蔵している。
結果として出来上がったのは垂直離着陸戦闘機というより、極めて高性能な汎用戦闘機、グローバルマルチファイターだった。
部隊配備は91年頃から始められ、特に日本側の機体は第四次大戦で縦横無尽の活躍を示すこととなる。
このような機体が出来上がった背景には先ほど出た単語、グローバルマルチファイターと関係がある。
この理論をドイツから日本に紹介したのはエネルギー機動性理論と同様、日航製にいた長瀬予備役大佐だった。海軍はこれを受けて<白剣>を開発したわけだが、<春日“海風”せりな>は万が一それの開発が失敗した場合の保険としても考えられていたのである。
そのために、ステルス性や超音速巡航(ぎりぎりのマッハ1.09ではあったが)といったものが付与されたのだった。実際のところを言えば、これがあったとしても<白剣>の代わりにはなり得ない事は明らかだったため、戦後<白剣>配備論がむしろ<春日“海風”せりな>のパイロットたちからも高まることになる。
#三九式垂直離着陸戦闘機/NH816<春日“海風/ベータ”せりな>
注:全幅は主翼を地面と水平にした場合、全幅は尾翼を垂直にした場合の数値
全長:16.45m
全幅:11.88m
全高:5.55m
自重:12137kg
発動機:石川島播磨IHI-SJ-911スラスターターボファンエンジン(推力約15000kg)×2
最大離陸重量:28300kg
垂直離陸重量:15980kg
最大STOL重量:24670kg
最大速度:マッハ2.34
巡航速度:マッハ1.09
航続距離:3700km
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